明日はオレの誕生日。
    ありがと。     EIJI KIKUMARU BIRTHDAY DREAM NOVEL 青学の高等部に上がってから数ヶ月経った11月27日、 オレの誕生日が目前に迫っていた。 「えーとぉ、不二でしょ、おチビでしょ、桃でしょ…」 この日オレは珍しく学校の休み時間に鉛筆を動かしていた。 「英二、忙しそうだな。」 「あっ、大石。」 オレはパッと顔を上げた。 何故外部の高校を受けなかったのか未だに謎の大石とは 高等部に上がってから同じクラスになった。 同じクラスってのは便利なもんで部活―勿論テニスね―のことも すぐ相談できるし今じゃ宿題のことでもしょっちゅう大石の世話になってる。 (尤も、大石も中学の頃より用心深くなっててなかなか写させてくれないけど) 中学の時はテニスでダブルスは組んでてもクラスは離れてることが多かったのに、 にゃんか巡り会わせって面白いよね。 「何やってんだ?」 「明日オレの誕生日パーティーだからね、参加メンバーの最終チェックだよん。  大丈夫、大石もちゃんと入ってっからさ!」 「ハハハ、そりゃよかった。」 「良かったら見てみる?」 オレは大石にリストを渡した。 渡したら大石は早速指でサーッと俺が並べた名前を辿る。 「なるほど…手塚も都合がついたのか。良かった、中学の仲間は全員集合だな…ん?」 大石がふと指を止めた。 「英二、このリスト、誰か抜けてないか?」 誰のことを言ってるのかはちゃんとわかってる。 「抜けてないよ。」 オレは断言した。 「あいつは、書かなくたっていいんだ。絶対来てくれるから。」 頭の中に、一人の女の子の姿が浮かんでくる。 男の子くさくてどっか古臭い喋り方、 人見知りが激しくて相手に合わそうとしない目、 ちょっと無愛想なくせにどっか優しい感じがする女の子。 一遍大喧嘩してそれっきり卒業まで口をきかなかった元・同級生、だ。 高校に上がってからもそのことをずっと気に病んでた俺が 大石にも背中を押してもらって仲直りをしたのは今年の夏休みのことだった。  * * * 11月も終わりに近いから、外はすっごく寒くなってる。 手袋してない手はすぐ冷たくなっちゃうし、空気を吸ったら喉が 凍っちゃうんじゃないかって思っちゃう。 でも今日のオレはそんな寒いことなんて気になんないくらい ウキウキ状態だ。 そんなオレは学校帰りに携帯電話で電話してた。 (周りに人がいなかったからだよ、念のため…。)  プルルルルル プルルルルル 電話から呼び出し音が聞こえる。 まだかな、まだかな…。 歩きながらオレは相手に早く出てもらいたくてたまらなかった。 『はい。』 「あ、?ひっさしぶりー☆」 『おお、菊丸か。久しぶり。』 この所聞いてなかった声に、オレは思わずニンマリする。 「最近寒いけどさ、元気してる?風邪引いたりしてない?」 『大丈夫だ、一応無事生存中だよ。お前も元気そうで結構なことだ。』 「、相変わらず言い方古くさーい。」 『失敬な。』 電話越しにのムッとしたような声が聞こえる。 多分、今頃ちょっと膨れっ面をしてんじゃないかって思ったら何か おかしかった。 っと、いけない。 肝心な用事を済ませないとね… 「それでさ、、明日来てくれるよねっ。」 『勿論。』 オレは細かいことを言わなかったのに、はあっさりと返事した。 これでもしお互い誤解してたらヤバいけど、何でかな、なら 絶対大丈夫って思っちゃうんだよね。 『お前の誕生日だからな、ちゃんと空けてるよ。』 ほら、やっぱり大丈夫だった。 大石とかと比べたら付き合いはずっと浅いのに、ホント不思議。 『ただ…』 「ただ?」 オレの頭に不安が一瞬よぎる。 『ただお前のテニス仲間も来るって話だからな、邪魔になるんじゃないかって  気になってしょうがないんだが。』 「だーいじょうぶだって!」 オレは請合った。 「そんな思いさせないからさっ。それにそんなに気ぃ使ってたら、 大石みたいに胃潰瘍になっちゃうぞ!」 『……大石も大変だな。』 電話越しのは冷や汗をたらしたみたいな口調で言った。  * * * に電話した後、ルンルン気分で家に帰ったらねぇちゃん達や母さんが 明日のオレの誕生日パーティーの準備にとりかかってた。 オレが無理言ってやらせてもらうことにしたのに何かみんな楽しそう。 そうそう、ケーキもねえちゃんがちゃんと用意しといて くれてるって。 よっしゃー。 も来てくれるってけってーしてるし、後輩達にも 会えるし、明日が待ちきれないにゃっ! 『こら〜、英二!!』 ……うちのオウムも元気みたい。 でも、もうちょっとマシな言葉を覚えてもらえないと から揚げにしちゃいたい衝動に歯止めがきかないかもしんない。 オレはますますルンルンになって、着替えようと部屋に上がった。 部屋を共有してる兄ちゃん(その2)は先に帰ってたんだけど、 机に座って何だかニマニマしてた。 「にーちゃん、なーにニヤニヤしてんのー。」 兄ちゃんはからかってるみたいな笑い方のまま俺の質問に 答えた。 それを聞いて、オレは思わず飛び上がった。 「ちっ、ちがうちがうちがうー。はそんなんじゃなくって、只の友達だって!」 でも兄ちゃんは明らかに俺の言葉を信じてない。 「ホントだってー。もうっ、明日に変なこと言うなよー!」 ったく、言うに事欠いて”明日は英二の彼女が来るらしいって聞いた”だなんて… が気を悪くしたらどーしてくれんのさ。  * * * そんでもってその日の夜は俺も明日の準備に取り掛かった。 部屋の掃除もしたし、飾りつけもした。 終わった頃にはちょっと疲れてた。
君が笑ってくれたらすっごく嬉しい。
そんでもって迎えた当日。 オレは子供みたいにワクワクしながら目を覚ました。 兄ちゃんはまだ寝てたから起こさないようにそっとベッドの上の段から降りる。 今日は久しぶりに皆に会えるんだ。 洗面所で顔を洗ってる時もそんなことを思う。 それににも。 そう思いながら濡らした顔を上げたら鏡にやたらニヤついた自分が映ってた。 うーむ、こんなんだからいつまで経っても子供だのなんだの 言われるのかなぁ。まっ、いっか。 オレが髪の毛をセットしてる間に、他の家族もボチボチ起きてきたんだけど 既に起きてるオレを見て姉ちゃん(その1)が、”怠け者の節句働きだ”なんて言った。 しかも昨日人をのことでからかった兄ちゃん(その2)が兄ちゃん(その1)と 結託してまたからかってくるときたもんだ。 む〜っ、皆、ちょっと失礼すぎない? って、普段が普段だからしょうがないか……  * * * オレの誕生日パーティーは午後から。 でも楽しみにしてることがある時に限ってなかなか時間が進まないよーな 気がするよね。 それは皆同じだとは思うんだけど、オレの場合それが余計強い気がする。 午前中、宿題をしたり大五郎を座らせなおしたりパーティーの準備が ぬかりないかチェックしたりして過ごしてる間もオレは早く早くって そればっかり思ってた。 しかも変なことに、今日の参加メンバーを思い浮かべたらいっちゃん最初に が出てくる。 おっかっしーなぁ。にゃんで??? はやる気持ちをなんとか抑えながらオレはふと、自分の携帯電話を 手にとった。 何気なくメールメニューから受信ボックスを開く。 部活関係の連絡が多いせいか、オレの携帯の受信ボックスは メールが大量に入ってる。 部活の連絡以外でならオレが大石に送った雑談メールの返事とか 高校になってから仲良くなった奴がふざけて送ってきたチェインメールとかが 多いかな。(言っとくけどチェインメールは誰にも回してない) 後はご丁寧にも一部の連中が今日の0時に送ってきた 『英二センパイ、おめでとうございまーす☆』とか 『誕生日おめでとう、英二。』とかのお祝いメールもある。 そんなメール達は『テニス部』とか『後輩』とかのフォルダを作って オレなりに整理されてて、ほとんどはいっぱいになってる。 でも、中に一つだけやたらスカスカのフォルダがあった。 オレは『』と名前のついてるそのフォルダを開ける。 中には受信メールがたった5件だけ入ってた。 夏休み、オレが意を決して仲直りしに行った時自分のメルアドを教えて、 もオレに アドレスを教えてくれたんだ。 でも、は自分からメールする習慣がほとんどないらしくて 自分から送ってくれることは凄く少ない。 が送ってくれる時はオレが送ったメールに返信してくれる時か 自身が携帯電話のカメラで撮った写真のうち面白そうなやつを 気まぐれに寄こしてくれる時に限られる。 それも、オレが部活とかで忙しくてなかなかこっちから送れなかったり が画像を撮る気になることが少なかったりでそう多くはない。 それにしてもフォルダに5件は少なすぎるだろって言われると思うけど、 コレはオレ自身のポカで、何を間違ったのかうっかり消しちゃったんだ。 で、気づいた頃には、のレアもんと言えるメールは2件しか残ってなかった。 それからというものオレはから受信したメールには必ず保護をかけるようにした。 それが残りの3件で、合計5件。 そういえば、からは誕生日おめでとうのメールは入ってきてない。 きっと、直接言ってくれるつもりなんだろう。 早く時間が過ぎてくれないか、と余計思ってしまった。  * * * 悶々としてるうちに時間はやっと訪れた。 パーティーの準備はもう万端、後はみんなが来てくれるのを待つばかりだ。 「さーて、一番乗りはだっれかなー。」 テーブルに肘をついてオレは呟いた。 母さんが笑いをかみ殺してる気がするけど、見なかったふりしよっと。 そしたら玄関のインターホンがいきなし鳴る。 「ほいほーい!」 オレは玄関まですっ飛んでった。 「今開けるからー。」 そんでドアを開けたら、 「英二、誕生日おめでとう!」 そこには大石がいた。 「わお、大石さっすがぁ、一番乗りだにゃー。」 「そりゃそうさ、せっかくお招き頂いてるしな。」 「サンキュー☆ささ、上がって上がって!」 オレは大石を家に上げて、リビングに通す。  ピンポーン インターホンがまた鳴る。 「はーい、今行くよん!」 次に来たのは手塚と不二だった。 「誕生日おめでとう、英二。」 「久しぶりだな、菊丸。」 「2人ともお久ー。大石が先来てるよ。にしても手塚ってば  相変わらず真面目が服着て歩いてるみたいだねー。」 「そういうお前はまだ分別が足りてないようだな。」 「に゛ゃっ…!」 「クスクス。」 手塚と不二を家に上げたらまたインターホンが鳴る。 3番目に来たのは後輩達。 「うぃーっス、英二センパイ!おっめでとーございまーっす!」 「どうもっス。」 「………おめでとうございます。」 「あっ、桃におチビー、それに海堂もいらっしゃーい!  って、何で海堂しかめっ面してんの?」 「こいつ、さっき通りすがりの猫をなでようとしたらいきなしファーッってやられて  ショック受けてるんスよ。ウプププッ。」 「バッ、余計なことを言うんじゃねぇっ、このお喋りがっ!」 「あー、はいはい、元気なのはいいけど外で騒がないでねー。」 その次に来たのがタカさんと乾だ。 「英二、誕生日おめでとう!元気そうだね、よかったよ。」 「タカさんも、元気にバーニングしてる?」 「ハハハ、どうだろ。」 「ふむ、この様子だと現時点で英二に彼女がいる確率はほぼ0%…」 「コラーッ、そんないらない確率計算はしなくていいっての!  乾、まだんなことしてんのぉ?高校でも嫌がられてるでしょ。」 「少なくとも女子の反感は買ってるかもしれないな。」 「何とかしろよ、それ…」 オレは冷や汗を垂らしながら、でっかいものコンビ(2人とも身長180以上だもんな)も 家に上げる。 とりあえず、中学の時に一緒にレギュラー選手で頑張ってた仲間はこれで揃った。 「んじゃ、これで全員揃ったってことで。」 リビングに通された面々を見て桃が言った。 「んにゃ、まだ。」 オレが言うと、その場に居たメンバーの大半がえ?という顔をする。 「後一人呼んでるんだ。」 「へぇ、誰をなんだい?」 タカさんが興味深そうに聞いたけど、オレは来てからのお楽しみとだけ 言っておく。 勿論、興味を持ったらしいのはタカさんだけじゃない。 乾は誰の確率が高いだろうかとブツブツ一人で呟きだした。 桃はおチビにどう思うか聞いたけど、興味ないの一言であしらわれた。 更には海堂にくだらねぇ、と吐き捨てられてた。 一方、手塚は頑固親父みたいに静かにしてるし、不二は何か感づいてるみたいで やたらニコニコしてる。 「大丈夫さ、英二。」 事情を知ってる大石が言った。 「ちゃんと来てくれるよ。」 「うん、わかってる。」 ……とは言うものの、後一人来ないとパーティーは始まんない。 あああ、何か微妙に不安かも!  ピンポーン 「来た!」 オレは思わず叫んだ。 何か声の調子がいつもと違ってたのか、後輩達や乾やタカさんが 一斉にオレに注目する。 オレは出て行こうとしたんだけど、たまたま玄関の近くにいた母さんが 代わりに行ってくれた。 そんで母さんが連れてきてくれたのは… 「スマン、菊丸。遅れた!」 「!」 事情を知らない仲間達の目が思い切りオレに注がれた。  * * * が来てやっとオレの誕生日パーティーは始まった。 姉ちゃん(こっちはその2)が運んできてくれたケーキの蝋燭に 火を灯して、オレが一気にそれを吹き消す。 集まった皆が一斉に拍手してくれた。 やっぱこういう瞬間ってすっごく嬉しいな。 仲間が祝ってくれてるんだもんね。 何より、がちゃんと来てくれたのが妙に嬉しく感じる。 「、何で遅くなったんだよー。」 母さんや姉ちゃん達が腕を振るった料理に手をつけ始める頃、 オレは隣に座らせたに言った。 「一瞬、来れなくなったんじゃないかって思ったじゃん!」 「そうぶうたれるな、着るものを決めるのに手間取ったんだ。」 「へぇ、一応も女の子だったんだ。」 「その発言、撤回しないならプレゼントはやらんぞ。」 それは困るのでオレは慌ててゴメンゴメンと謝った。 は冗談だよ、と笑って手にした物体をオレの前に突き出す。 「ほれ、菊丸。」 薄い水色の柔らかい紙包み、口のトコはおっきなリボンで縛ってある。 「あ、ありがとう。」 ニッコリ笑って言ってくれるの顔に、何か大きな衝撃を感じて オレの声が上ずった。 「何スかぁ、英二センパイっ。」 桃がニヤニヤしながら言った。 「彼女の前だからってデレデレしちゃって!」 「ち、違うって!そんなんじゃなくて…」 「それじゃ、ハイ、こいつは俺からっス!」 桃は人の話を全然きーてない。(絶対わざとだ。) 桃に続いて他のみんなも一斉に自分の持ってる包みを オレに渡してくれる。 たちまちのうちにオレの腕の中はプレゼントでいっぱいになった。 「うわ、すっごい。みんなサンキュー☆オレって幸せモンだなー。」 そう言ったら、が自分のことのように笑っていた。  * * * がオレのテニス仲間達に馴染めるかちょっと心配だったけど その心配はあんまりないみたいだった。 大石と不二は久しぶり、と話しかけてるし、タカさんや手塚ものことをちょっとは 知ってたらしくて普通に挨拶してるし、元々人懐っこい桃はさっそく近づいて にあれやこれやと聞いている。 乾に至ってはお得意のデータノートを広げ始めたもんだからは 『お前、まだやってたのか、それ。』って言ってた。 海堂やおチビとも何やかんや話してたし、思ったよりずっと 楽しんでくれてるみたいだ。 しかも、飲み食いしてる間もすっごく幸せそうな顔してて こっちも何だか笑ってしまう。 夏休みに会った時とはまた違う、初めて見る。 「やっぱりさんだったんだ。」 不二がボショッとオレに囁いた。 「後一人って。」 「何でわかったの?」 「何となく。」 ううう、やっぱ怖いよ、不二。 どこまで勘いいのさー。 「夏休みに僕まで巻き込んでおいて、さんを放っておくなんてことは  いくらなんでもしないだろうって思ってね。」 「アハハ…」 もしこれでのことをほっといてたらオレ、不二に呪われてたかもしんない。 「菊丸ー!」 すっかりとハイテンションになったがすっ飛んできた。 「私と一緒に歌わないか?いや、寧ろ歌え!」 「命令形かよ!」 「苦情を受け付ける気はない、ほらほら早く。」 またもの新しいトコ発見。 テンション高くなるとけっこー強引だ。 がオレを引っ張りあげた途端、桃がヒューヒューという音を立てる。 「いよっ、お熱いっスね、お二人さん!」 どーしてもその発想から抜けらんないのか、桃。 あーもー、こーなったらヤケだ! 『おおっ?!』 オレの突然のパフォーマンスにほぼ全員の目がこっちに集中する。 (手塚は頭をこっそり抱えてたから除外。) 「ちょっ、菊丸?!」 いきなし持ち上げられたことに思うとこがあるのかが 小さく声を上げる。 「いーじゃん。」 オレはその耳元でこっそり言った。 「遅く来てオレに気を揉ませたんだから、こんくらいは  サービスしてよね。」 「馬鹿者が…」 顔を赤くして言うは結構可愛いと思う。 「よっしゃー、んじゃデュエット行ってみよー!」
そんな君が好きなんだ。
その後もオレはみんなと散々騒いだ。 一緒にゲームしたり喋り捲ったり、外部受けて 離れちゃった奴もいたからそらもーはしゃいじゃってたと思う。 はその間もずっと楽しそうに笑ってた。 改めて、はこんな風に笑えるんだな、と思った。 あの頃は知る由もなかったけど。 そんな訳で始まるまでは長かったオレの誕生日パーティーも、 お開きの時間はあっという間にやってきた。 「じゃあな、英二。明日学校で。」 「邪魔したな、菊丸。」 「良かったらまた連絡してね。」 「じゃ、英二センパイ、どーぞお幸せに☆」 「人様のプライバシーに首突っ込んでんじゃねぇよ、このバカ。」 「思わぬデータ収穫があったな、これはうちに帰って早速…」 「乾、もうそんな分析はよしなよ。」 「まだまだだね。」 テニス仲間達が口々に言う。 「みんな、今日はホントにありがとっ!」 オレは自分でもそれとわかるくらいニカーッと笑って みんなを見送った。 ホント、多分忙しかった奴もいただろうに(手塚あたりとかさ) オレの為に来てくれて嬉しい。 また、皆で集まれたらいいと思う。 「さて、と」 おチビの姿も見えなくなった頃、オレは後ろを振り返った。 「、行こ!」 「あ、ああ…」 ずっと後ろで待ってたはドキマギしてるみたいだったけど、 オレはそんなの無視してその手を引っ張る。 まだためらってるを連れて、街灯で照らされた道に出た。 「わざわざ駅まで送ってくれなくても。」 一緒に歩きながらは呟く。 「ダーメ、もう暗くなってるし一応女の子なんだしさ!」 「一応を2度以上強調されて黙ってられる程寛大でも気長でもないんだが?」 「ハハハー、肝に銘じとくよ。」 そんなやり取りをして、2人ともしばらく黙る。 暗い中、オレとの足音だけが妙に響いてる。 静かなのに、不思議とオレはそれが嫌じゃなかった。 テニス仲間とまた違った意味で、の隣に居るのが嬉しくて。 は、というとしれっとした顔で空を見ながら歩いてるだけだったけど。 やがて静寂を破ったのはオレの方だった。 「、最近どう?」 「どうってどうということはないな、社会科研究同好会も  順調だ。この前も学校の近所の遺跡をいくつか回った。なかなか有意義だったぞ。」 「遺跡…へぇ。」 「尤も、先生と行ったのが月曜日でな、一箇所開場してないトコがあった。  仕方ないから柵を乗り越えてこっそり取材したよ、ハハハ!」 「うわっ、わっるー!先生と生徒で何やってんのさー。」 そっか、それなりに楽しそうにやってるんだ。 良かった。 「何で?」 「ん、学校でヤな思いしてないかなって。」 はハハハと笑った。 「わざわざ心配してくれてたのか。」 「だってさ、オレ一遍泣かせちゃってるし、誰かがまた同じ思いさせてたら  嫌じゃん。」 「菊丸、その話はもうやめようって言っただろ?」 「あ…」 ま、そういやそーだけどさ、やっぱ当事者だったオレとしては 気になるっての。 そう言ったら、は何か面白そうにニヤニヤ笑った。 「私はそれよりお前が干し猫にならずに無事夏をすごせるか  どーか気になってたんだが。」 「ちょっとちょっと、それはないんじゃない?」 記録的猛暑だった夏休み、ロクに水分を取らずにを探して ウロウロしてたことを思い出す。 にしても『干し猫』って…どっから出てくるかな、そんな発想。 ま、いっか。 「あのさ、。」 「ん?」 ずっと空を見てたはオレに視線を戻した。 「来年もまた祝ってくれる?」 いきなりのオレの言葉、でもは全然動じない。 「無論。」 思ったとおりの返事が返ってくる。 「それはいいんだが、菊丸。」 「にゃに?」 「さっきから私の手を握りっぱなしで辛くないか?  私は冷え性なんだけどな。」 「全然。」 寧ろ離す気になれないし。 そんなことを思ってたら、とーとー電車の駅に着いた。  * * * 「それじゃあな。送ってくれて有り難う。」 いろんな人が行き交う駅ビルの前では言った。 「こっちこそ。」 オレは、ちょっと名残惜しい気がしながらもそっとの手を離す。 「気をつけてね。」 「ああ。」 は駅ビルの中に向かって歩き出す。 でも、途中で一遍足を止めてオレの方を振り向いた。 「そうだ、言うの忘れてた。」 「?」 「誕生日おめでとう、”英二”。」 「!!」 オレが何か言う前にはさっさと駅の方へと向かってしまい、 その後姿は人ごみに紛れて消えてしまった。 「…」 何だよ、今更言うなんて反則じゃん! オレは、ズボンのポケットから携帯電話を引っ張り出して 高速でキーを叩いた。 画面を見て、内容を確認するとそれを即メールで送る。 「さーて、」 送信が完了したのを見届けて、オレはうーんとノビをした。 「オレも家に帰ろっと。」
『ありがと。』 オレが送ったのはその一言だけ。 でもそれできっと充分。 君はわかってくれてるだろうから。
そうそう、その日の夜にがくれたプレゼントを開けたら 中から歯ブラシと歯磨き粉とでっかい青いリボンが出てきた。 歯ブラシと歯磨き粉はいよいよって時までとっておいて、 リボンは部屋に置いてる熊の大五郎の首に結んだ。            ―THE END―
作者の後書き(戯言とも言う) 遅れてしまった遅れてしまった遅れてしまった…(以下略) なーんて今更自己嫌悪したってしゃーないな! ちゅー訳で菊丸少年誕生日夢です。2日遅れですが。 今回は知る人ぞ知る前作『ゴメンね。』の続編であります。 撃鉄は基本的にリクエストがない限り同一ヒロインで書くことは ほとんどないんですが、今回はどうしてももう一遍彼女で書きたい という衝動が強くて…。 そのせいでしょうか、遅れはしたもののわりとスムーズに書けたと思います。 えーと、『仕方ないから柵を乗り越えてこっそり取材した』でありますが… きっちりマジの話です(^_^;) 某所の史跡でやらかしました。 今思えば何で引率した先生も気がつかなかったのかわかりません。 車も思い切り史跡の前に止めてるし、下手したら生徒と先生揃って近所の人に 通報されてたかもです。 しかも、実際には撃鉄以外の同好会のメンバーは参加 しなかったという…やれやれ。 とにかく何とか11月中にこれを間に合わすことが出来てよかった。         菊丸英二夢小説メニューへ戻る